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巻頭通信2018年1月号


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ペットとの共生社会を実現するために私たちができること

理事 西村 亮平

新年あけましておめでとうございます。昨年は何かと騒がしい一年でした。今年は穏やかな年であってほしいと思う反面、何か物事が進むときは騒がしくなるのが世の常ですから、それもまた良しかもしれません。いずれにしても本年もよろしくお願いいたします。

さて昨秋ペットとの共生推進協議会のシンポジウムで、「ペットとの共生社会を実現するために私たちができること」と題する講演をする機会を得ました。その時まとめた内容をもとに、このミッションが実現するためにはどうすればいいのか、とくに私たち獣医療関係者ができることは何か新春放談として自分なりの考えを述べてみたいと思います。
ペットとの共生社会を実現するためには、その根幹として社会がそれを受け入れ楽しむ気風が必要不可欠です。ちなみに、この“気風”という言葉は、動物の愛護及び管理に関する法律の第一章第一条に“動物を愛護する気風を招来し、、、”として使われているところから拝借しました。この気風が無ければ、テレビCMのブームなどで一時的にペットの数が増えるということはあるかもしれませんが、ブームが去れば砂上の楼閣でしょうし、そもそもそのことがペットとの共生社会を意味しているわけでもありません。
日本人で動物好きな人はたくさんいますし、犬や猫をかわいがる人も数多くいます。しかし実際にペットとして犬や猫を飼う人の数は世界的にみればかなり少ないし、社会の中で大切な存在であるという認識もあまりありません。すなわち日本人とペットの関係は、個々には強い結びつきがあるものの、社会との関係は希薄であると言えます。したがってこの課題の解決を図る際に働きかける対象として、現在ペットを飼っている人よりも飼っていない人の方が重要であることが理解できます。
それでは具体的のどのようなことが効果的なのでしょうか。以下にキーワードを挙げながら考えてみたいと思います。もちろん何か一つのことですべてが解決するわけではなく、一つ一つのことを地道に進めていくことが結局最も近道だと思われます。また、当然ですが我々獣医療関係者だけでできることはほんの一部に過ぎず。他の領域の人たちとの連帯が重要であることは言うまでもありません。

1.ペットと暮らす効用の科学的エビデンス
 ペットと暮らす魅力を広く社会に伝えることは効果的かつ有用な方法である。これには感情に訴えるやりかたと、科学的エビデンスに基づいて伝えるやりかたがある。前者はテレビのCMが良い例であるが、これまでにあったブームの間や後に様々な問題が生じたことは多くの人が鮮明に記憶していることだろう。数を増やすことを目的とした方法は様々な歪を生じさせやすいし、社会的批判も浴びやすいことは肝に銘じておく必要がある。一方ペットと暮らす効用については様々な角度から研究がなされ、数多くの科学論文が発表されている。例えば、ペットと暮らすことで子供の発達・発育にいい影響がもたらされる、高齢者がペットと暮らすことで健康寿命が延び、医療費の削減にもつながることなどが示されている。CAPP活動などもその1例である。まだまだエビデンスレベルが十分でないものも多いが、このような客観的事実をわかりやすく社会に発信することは、社会的合意を形成する上では非常に強力な武器となる。社会的合意があれば、現在ボランティアベースで行われている様々な活動に行政が加わることも容易になるはず。行政の関与を嫌う人もいるが、多くの場合活動を広げるためには行政とのタイアップは不可欠だと思う。
2.ペットと暮らす楽しさ
 いくら効用があると説いても、生活そのものが楽しくなければ長続きしない。ペットと暮らすことの楽しさを伝えることを、ビジュアルを多用して伝えることも効果的である。こんなに楽しいことがありますよ、癒しが得られますよということを発信することも重要。最近ペットツーリズムという言葉をよく聞くようになった。主に犬を連れて旅をすることだが、これに必要な交通手段や、宿泊施設が充実してきていることがベースにある。犬と旅する楽しさを伝えられれば、人生の楽しさの一つを紹介することになるだろう。もちろんペットと暮らす楽しさの多くは日々の生活の中にあるのだが。
3.前例のないことは認めない
 人は見たことがないものは排除する性質がある。一方で、人は元来好奇心が強い。この2つのバランスで新規のことに挑戦するかどうかが決まって来る。日本人は全体のバランスがリスク回避に傾いているように思える。安全ではなく極端な安全・安心を求めることもその表れかもしれない。所属する大学も前例のないことが認められることはほとんどない。このことは、人は見たことのあるものはなんとなく受け入れやすいと逆に言い換えることもできる。さまざまなシーンで動物が人と共にいれば、なんとなくそれが当たり前という環境が作られていくと予測される。ペットと社会の接点を増やすという発想も必要である。犬好きだけが集まる集会を繰り返してもこの点の進歩は見込めない。
4.犬好きが犬嫌いを作る
 今年の夏に動物の保険会社が実施したアンケートで、犬の飼い主の大部分が犬を飼っていない人に十分な配慮をしていると答えたのに対して、犬を飼っていない人の2/3は、犬の飼い主に不満を感じているという結果が得られている。その理由の大半は犬の飼い主のマナー違反である。マナーの基準はおかれた社会によって当然異なって来るわけだが、現状では十分ではないということだろう。犬好が犬嫌いを作っているという構図が見て取れる。当たり前のことのようだが、ペットを飼う人の意識向上を積極的に図ることが重要である。マナーが向上すれば動物たちの社会進出が増えることで動物たちの接点が増え、過剰なマナー要求が少なくなるという好循環が生み出されることが期待される。また犬が嫌いになった人に聞くと、その理由の多くは過去に嫌な経験をしていることによる。このような悲劇を減らすことにも結び付くだろう。
5.幼児教育、初等教育期の経験が重要
小さな子供たちに動物を見せると、多くの子たちは興味津々で、危なくなさそうと分かると触りたがる。Wilsonは、“Love of Nature”すなわち人は生得的に生命及び生命に似た過程に対して関心を抱く傾向を持っていると述べ,これをバイオフィリアと呼んだ。合わせて、生命に親しみ、探究するという営為は、精神の発達と深くかかわるプロセスであり、子どものバイオフィリアの育成時期として、幼児教育、初等教育段階が適切であるとも述べている。すなわちこの時期に動物と触れ合う機会を持つことは多くのメリットがあると考えられ、また動物嫌いの大人を減らすことにも役立つと思われる。一方で徹底した安全・安心を求める親がいれば実施は難しいし、実際安全を担保するためには様々な工夫が必要である。また動物を使う場合には動物側の負担も考慮する必要があり、その実施には多くの人の努力と協力が必要である。
6.いつ、どこから、どうやって?
 犬はどこからやってきて、いつごろから人間と暮らすようになったのだろうか。また哺乳類に限っても数千種類いる中でなぜ犬と人は種を超えてこのような強い結びつきを持つようになったのだろうか。これらの点については数多くの研究が進められており、多くの興味深い知見が得られている。一見わかりにくい猫についても様々な研究がスタートしており、これもなかなか面白い。ペットのことを考えるときにこのような知識を持つことは、とくに精神面においてより深い関係を築くために役立つ。獣医療関係者はこのような知見を易しく社会に伝えることができる人たちでもある。
7.私にとってのアニマルウェルフェア
 動物愛護あるいはアニマルウェルフェア(この2つの言葉が同じことを意味しているのかはよく分からないが)という言葉をよく聞くようになった。しかし、この言葉の意味するところはそれぞれの立場で微妙にあるいは結構違ってくる。産業動物の立場、動物園動物の立場、補助犬の立場、ペットの立場、野生動物の立場などによって考え方は異なって来る。しかし、人類はいろいろなところで動物と深くかかわってきてしまっている。それぞれの立場で考えるアニマルウェルフェアを議論しあうことは重要である。しかし、立場の異なる人との議論は日本人がかなり不得手とするところである。考え方が違う=人格否定という方向に進みやすい。様々な考えを理解し、寛容性をもって社会的合意形成を目指すことは、ペットとの問題に限らず、これからの日本社会にとって大切である。
8.動物と暮らすことのへの不安と問題点
 動物と暮らすことはいいことばかりではない。動物たちも病気もすれば怪我もする。また動物から人にうつる病気もある(人から動物にうつる病気もあるし、実は人にうつる病気の大半は人からうつるのだ)。また問題行動(これはあくまでも人から見た問題である)に悩まされている飼い主も少なくない。このような問題をできるだけ減らす、また生じてしまった時にどう対処すればいいのかという情報をまとまって、かつ科学的に発信することも結果としてペットとの共生社会を実現するのに役立つだろう。
9.支えるシステム
 ペットと共に暮らすあるいは暮らしたいと考える中で、個人ではなかなか解決が難しい問題も少なからず生じてくる。例えば、高齢になってペットの世話が大変になってきた、ペットより先に死んでしまったらどうしよう、ペットが亡くなって立ち直れないなどの問題は、支えるシステムの構築が重要である。前にも述べたが、このようなシステム作りは単独のボランティアベースではなかなかうまく機能しない。様々な繋がりが重要である。
10.横の繋がりを
 現在多くの団体や個人が動物関連の活動を行っている。もちろんその方向性は様々であるが、社会における動物と人間の関係をより良いものにしていこうとするところは共通しているだろう。しかし、日本では社会に十分な影響力を持つ団体、組織が存在しない。またさまざまな活動を行うためには資金が必要だが、大部分の団体は寄付金に頼らざるを得ない。しかし寄付文化があまりない日本では、大半が資金不足から少人数グループのボランティア活動から抜け出すことが難しい。これを解決するためには横の繋がりを広げていくしかない。しかし、自分の活動目標にこだわり他は許さないという態度では到底達成できることではない。高い寛容性をもち最終目標に向かって協働する態度が求められる。ご批判は承知で、もう少しいい加減でもいいのではないでしょうか、日本人。

 以上新春のお屠蘇気分で夢を語ってみました。1つでも多く実現することを願って新春放談を終わりにしたいと思います。

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